8歳の時にクラリネットをプレゼントされ、14歳の時にはすでに自分のバンドを結成していました。結婚式やカーニバルに呼ばれては上演していたと言います。ライナーのミュージシャンとしてのタレント、そして彼のビジネスセンスも加わって、すぐにミュージシャンとしてお金を稼げるようになりました。「当時のギャラは5マーク。1956年には大金だったんだよ」、と語ります。それだけではありません。突然女の子たちからモテモテになり、そのころから、この業界なら素晴らしい未来が待ち受けていると確信を持つことになりました。

そんな彼は高校卒業後、キャリアスタートのためにミュンヘンに向かいました。「レオポルド通り、イーザル川、イギリス庭園、モノプテロス寺院、そして居酒屋。ミュンヘンは世界の中心みたいなところだった」。思い出すだけでもワクワクしているライナー。バンドを率いるリーダーは柔軟性に富んでいなければならないと学んだのもその頃です。カイザースラウテルンの売春宿からの依頼なども受けることになりました。「600人ぐらいの酔っぱらったGIと女の子でいっぱいの店だった。GIのお給料日でね、楽しみたかったんだろうね」、とほほ笑みます。 しかし、そこでの深夜の上演では嫌な体験を強いられることにもなりました。拳銃での撃ち合いの果てに店中を壊してしまうような大げんか。「投げ飛ばされた人が宙を飛んでたよ」。裏口からしか逃げ出せないような状況にはしばしば直面したと言います。「本当に西部劇みたいだった」。

ミュンヘン時代はライナーにとって特別な時代だったようです。彼と彼のバンドのメンバーはミュンヘンではいいギャラを稼ぎ、「でもね、1マルクも貯金しなかったね」。楽しい生活だったとはいえ、秀でていなければ可能性は限られている、と実感させられた時でもありました。「当時ミュージシャンをやっていた経験がプロデューサーとしての成功の基盤になりました。何を演奏しなくちゃならいかはっきりわかるようになったから。観衆を踊らせて拍手してもらえるような音楽とかね。」。

フェルゼンは1970年にハンブルグへ移り、ドラフィ・ドイチャーの『Mama Leone』でプロデューサーとしてのキャリアをスタートしました。「ヨーロッパのNo.1ヒットになったんだよ。『Mama Leone』でお金の心配の要らない人生をスタートすることができた」。と包み隠すことなく語ってくれます。Torfrock、Die Rentnerband、Maik Krüger、Klaus & Klausといったアーティストたちの作品を手掛けるようになり、『北海の海岸で（An der Nordseeküste）』、『廊下の馬（Ein Pferd auf dem Flur）』などが大ヒットしました。ライナーは80年代で最も成功したプロデューサーの一人になりました。

そんな輝かしい経歴を持ちながら、ライナーは地味な普通の生活を楽しんでいます。これまでにしてきたことは、何もかも楽しんでやった、と言います。彼にとっては何かに没頭すること、人と交流すること、そして品質が何よりも、自分よりも大切なもの、という彼の姿勢がはっきりと伝わってきました。10万枚販売記念で贈られた金のアルバムもいくつかはどうでもいいから人にあげてしまった、とか、ディーター・ボーレンのデビューシングルの制作の手助けをした話などを聴いていると彼の人柄も浮かび上がってきました。「ディーターがどこに行っても断られたって言うんだよね。いいやつだし、才能もあるから何とか手助けしてあげたくなって」、と振り返ります。「あのシングルはね、「乗れよ、ベイビーブルー。キスされるときは目をつぶれ」っていうタイトルだったんだ。いい曲だったけど、販売はされなかった」。とウィンクしながら笑うライナー。

「やくざな世界」と呼ばれる音楽業界でも、アーティストにはお金をあげすぎるぐらいがいいという姿勢で働いていたライナーは、他の人のようなトラブルに遭ったことは一度もないと言います。彼は何よりも品質にだけこだわっていました。品質さえ良ければ大満足だったようです。そんなライナーだからこそ、Birkenstockに魅かれたのかもしれません。

「思い出せないほど昔からBirkenstock履いてるよ。品質が良いからね」。Birkenstockじゃなきゃダメ、一番の靴だから。彼の理論はシンプルです。その他に彼にとって嬉しいポイントは？汗っかきの足への対策。そんな足だから、冬でもずっとサンダルのままだと言います。「僕のニックネームはBirkenstockのおかげだよ。行き付けの飲み屋ではみんなそれぞれニックネームがあるんだ。「魔術師」、「ポップスター」、「ドラッグディーラー」とかね。いつもしゃべっていてうるさい奴は皮肉っぽく「沈黙家」って呼ばれてる。僕のニックネームは「サンダル」。そう、僕は「Birkenstockサンダル」を体現してる」。

こんなニックネームも彼は気に入っているようです。Birkenstockには昔も今も、同じような感情を抱いています。「改善の余地がある靴だったら、世界中でこんなに愛されるわけない。僕にとって、Birkenstockって最上級のサンダルだよ」。

「マヨルカでも北海海岸でも履き続けていくつもり。」